はじめに
LPWA(Low Power Wide Area)の一種であるLoRa®は、低消費電力で長距離データ通信を可能とする無線通信技術で、日本国内では920MHz帯を使用する場合が多く、主にセンサーデータなどの通信に最適です。LoRa®はLoRa®変調による電波を利用したデジタル通信方式を採用しており、非IP閉域通信網(IPプロトコルを用いない通信)のため、閉じた通信系を構成してLoRa®モジュール間の相互通信でアプリケーションを成立させることができます。LoRa®の通信速度は低速ですが、見通しの良い環境であれば数キロ先の長距離通信でも安定した通信が可能です。
LoRa®通信の特徴
LoRa®変調は、送信データを高度な演算手法を用いて、使用帯域にスペクトラムを拡散して伝搬路中で受ける影響を小さくして送信します。受信側では、非常に弱くノイズが多く含まれた受信電波を増幅し、その中の僅かな信号からもとのデジタル符号を復元する方式を採用しています。この変調方式によって、一般的な他の変調方式と比較して飛躍的な長距離通信を実現できますが、一方で変調時における演算による冗長性から通信時間に対して送信できるビット数は少なくなります(低ビットレート)。
パケット通信方式を採用するLoRa®が一回の送信で送ることができるデータは少量で、各パケットは到達の保証はなく、アプリケーションにおいては、パケットを直接扱う場合、IP通信でのUDPデータグラムのように取り扱うことになります。ACKメカニズムなどを追加し、到達率の向上や到達保証を加えることも可能です。
これらの特徴から、少量データを取り扱うセンサーデータなどの利用に適しています。LoRa®を使用して音声や画像などの大きなデータを送信する場合は、データを高圧縮し、多数のパケットに分割して送る必要があるため、実用には工夫が必要となり、多くの通信時間を要します。多量の通信をしてペイロード(パケットのデータ列部分のサイズ)が長くなると、電波の発射時間が長くなるため、その通信機での受信ができない他、その間はその近傍エリアで同一周波数やパラメータでの通信が困難になります。
国内でデジタル通信での使用に適した920MHz帯は、認証を受けた適合表示無線設備(技適マークの付いた機器)であれば、特定小電力無線局に該当する20mW以下(-13dBm)の電波を免許不要で発信することができます。2.4GHzや5GHzに比べると(携帯電話などでは、プラチナバンドとして知られる)波長が長いこの周波数帯は、電波の回り込み特性に優れており、直接送受間で見通しが確保できない場合であっても遮蔽物の影響を減らすことができます。従来の920MHzのシンプルなデジタル変調方式での、同出力での通信距離は数百メートルからせいぜい見通し1kmといったところでしたが、LoRa®変調を用いた場合はこの距離を飛躍的に伸ばすことができ、企業や研究機関の実証実験では70kmを超え、100km以上通信できた記録もあります。
無線通信は、アンテナの選択や性能に大きく影響を受けます。LoRa®通信においてもこの点は同様で、特に長距離での使用を想定した使用方法が多く検討されるため、認証登録済アンテナ(電波法による工事設計認証においてLoRa®モジュール製品メーカーが登録しているアンテナ)のラインナップを揃え、その中から適したものを選択して最適なものを使用できます。屋外、長距離、移動通信など様々な用途で使用することを前提としており、サイズや形状、使用目的(防水・非防水・部品型のチップアンテナ)、コネクタの形状やケーブル長(SMA、IPEXなど)、ゲイン(利得と指向性)と取り付け方法、VSWR(1.0に近いほど理想的)などを踏まえて、利用環境や目的に最適なアンテナの選択が可能です。
LoRa通信モジュールの省電力化(当社E220シリーズ)
当社のE220シリーズPrivate LoRa®モジュールには、受信電力の大幅な削減を目的としてWOR(Wake on Radio)機能が実装されています。大半の時間は電力がほぼ0に近いスリープ状態で待機しておき、数秒ごとに受信アンプを極短い時間オンにして電波をチェックする動作を繰り返すことで、待機電力の支配的なアンプ電力の大半をカットして平均消費電流を大きく下げ、低消費電力化を実現します。また、幅広い小型電源に対応しておりCR系のコイン電池、乾電池、リチウム系一次電池をはじめ、リチウムイオン・リチウムポリマーなど3.7V電源、USB VBUSやDC5V電源など低圧系電源の(電源回路を必要とせず)直接給電での使用が可能です。電圧レギュレータなどを用いず小型電池で長期間の駆動ができることで、機器の小型化と長寿命化の実現可能性を高めます。
Private LoRa®とLoRaWAN®
LoRa®変調を利用した通信機は、Private LoRa®とLoRaWAN®に大別されます。このほかに、LoRa®変調モデムのみを搭載したモジュール部品も存在しますが、日本国内の認証の制度設計の兼ね合いで、実用上使用されることは希です。
Private LoRa®は、一般に各モジュールメーカーが各国向けの周波数帯、電波法などの制約を加味して、高い効率が得られるように組み込まれたLoRa®変調モデムを使用するように設計されたデジタル通信装置とその方式であり、原則、メーカー間での通信互換性はなく、同一メーカー、又は同一シリーズなどの組み合わせにて使用する必要があります。
LoRa通信を各国の電波法規内で、最大限活用することができるメリットがあり、通信手順に制約が少なくアプリケーションの設計自由度が高いため、利用者の目的に応じたアプリケーションへの適用の幅が大きいことが特徴です。アクセスポイントなどを経由せずに直接電波が届く範囲でデバイス間の相互通信を行うことも可能で、非常に柔軟にネットワークを展開でき、目的によって多種多様なトポロジを構成できることも魅力です。特定小電力無線局に該当する20mWモデルが普及しており、さらに、送信頻度の制約はあるものの最大250mWまでがアンライセンス(無線局の届出と電波使用料のみ必要)で使用可能です。
Private LoRa®を用いて、インターネットへデータを伝送するためには、使用するPrivate LoRa®の通信モジュールから、Wi-Fi、4G/LTEなどのインターネット回線へゲートウェイする装置の設置を別途必要とします。このゲートウェイの開発も利用者が目的に合わせて自由に開発できることも魅力の一つであり、簡素なものであれば、Wi-Fi機能などを搭載したマイコンと組み合わせて実用的なPrivate LoRa®網を構築できます。
LoRaWAN®は、Semtech/IBMが中心となるLoRa Alliance によって標準化されている規格で、世界各国の異なる電波法規制をできるだけ共通に扱えるように下位レイヤを設計し、その上位プロトコルにLoRaWAN®通信規約でとりまとめたものです。異なるモジュールメーカーの製品間でも相互運用ができるように策定され、サービス事業者がアクセスポイントを提供することで、利用者がそのアクセスポイントや帯域などをシェアして使用します。商用サービスが可能なよう設計されており、特に日本国内では、送信電波時間規制の影響で実際のペイロードサイズが11byte(デフォルトのSF10の場合)に制限されます。商用サービス以外にも、LoRaWAN®の草の根インフラとして無料で設置済みのアクセスポイントを利用することができるTTN(The Things Network)も存在します。TTNは誰でも対応機器を設置することでTTNへジョインすることができますが、携帯電話網のように広く通信可能エリアをカバーできてはいません。TTNのアクセスポイントが利用できる範囲であればそれを使用してゲートウェイをさせることが可能です。
Private LoRa® もLoRaWAN®もLoRa®変調を行う無線部分は同じ仕組みが採用されており、無線性能(到達距離やノイズ耐性など)には性能差はありませんが、上位プロトコルの違いによって、相互に通信互換性はありません。
Private LoRa®のトポロジの自由度
Private LoRa®におけるアプリケーションの構成法は、極めて自由度が高く、LoRa®通信ノードのトポロジ(通信ノードの通信パターンの組み合わせ方など)は、LoRaWAN®や4G/LTEのセルラー網など他の通信方式では実現できないアプリケーションを実現できます。
アクセスポイントなどを介さずに、直接電波が届く範囲のデバイス間での相互通信が可能なため、アクセスポイントの設置が難しい場所での使用や、アドホック(その場で一時的に構成される)なネットワークを構成して動作する小容量通信アプリケーションにも最適です。IP通信利用時と比べ、簡素な設定で柔軟に広域ネットワークを展開でき、受信可能な範囲にある同一設定の全デバイスに一斉配信・通知(ブロードキャスト)するというような使用方法も可能です。
また、中継装置を用意することで、マルチホップによる伝達距離の延伸も可能です。
よく使用されるトポロジ例は下記のとおりですが、ここにあげたもの以外にも目的や使用場所に合わせて最適な形を選ぶことができます。
<トポロジ例>
・アクセスポイント/ゲートウェイ型

・マルチホップ/中継伝送/メッシュ型
・一斉配信/制御/同期/ビーコン型

・Peer to Peer型

LoRa®使用時の免許・登録
LoRa®モジュールは出力の大きさによって特定小電力無線局と登録局(陸上移動局)に分けられます。特定小電力無線局は免許・登録が不要で、登録局の利用には免許は不要ですが登録が必要です。
[E220-900T22S(JP)]、[E220-900T22S(JP)R2]、[A660-900T22]は特定小電力無線局のため、免許・登録が不要です。
[E220-900T22L]は160mWハイパワーモデルのため、登録局(陸上移動局)の登録が必要です。
LoRa®の通信費用
[E220-900T22S(JP)]などのPrivate LoRa®モジュールは、通信費用がかかりません。
[E220-900T22L(JP)]については、通信費用はかかりませんが、登録局(陸上移動局)の登録と年間利用料が必要です。
[A660-900T22]でLoRaWAN®のサービス提供回線を使用する場合は、通信費用が必要です。金額は、各社サービス提供会社により異なります。
LoRa®の活用例
LoRa®の特徴を生かした活用例は以下のとおりです。ご紹介する活用例以外にも、アイデア次第でLoRa®の活躍の場は無限に広がります。
① 社会インフラ・環境モニタリング
<利用例>交通量観測・河川監視・環境センサー情報転送・スマートメータ活用(AMI)
LoRa®を活用することで、都市部から山間部まで広範囲なエリアにおいて低消費電力での通信が可能になります。交通量観測や河川の水位監視、環境センサーによる大気・気温データの収集などによるエネルギー利用状況の把握などが、通信を活用して人手に頼ることなく行えます。これにより、災害対応の迅速化や効率的な都市インフラ運用を実現します。Private LoRa®なら通信費用が不要なため、ランニングコストも抑えられます。
② スマートホーム・ビル関連
<利用例>スマートホームアプライアンス・ホームワイヤレスセキュリティ・ビルオートメーションシステム
家庭内では、スマート家電の制御やホームセキュリティシステムとの連携により、安心・快適な暮らしをサポートします。さらにビルオートメーションでは、照明・空調・エネルギー管理などをLoRa®ネットワークで統合し、省エネ性と運用効率を高めることが可能です。Private LoRa®なら通信費用が不要なため、低コストでの運用が可能となります。
③ 農業・森林・自然環境
<利用例>スマート農業・山林内危険検知
農業分野では、圃場の土壌水分や気象データをリアルタイムで収集し、灌漑や施肥の最適化を実現、人手不足解消や収穫量の安定に貢献します。また、山林では作業者の位置把握や倒木などの危険検知に活用され、安全な作業環境を確保します。広範囲をカバーできるLoRa®の特性は自然環境のモニタリングに特に適しており、電源が無い場所でも電池駆動や太陽光発電などで対応することができ、インターネットなどが繋がらないような環境でもLoRa®の相互通信でカバーできます。
④ ヘルスケア・個人利用
<利用例>ヘルスケア製品
ウェアラブルデバイスや家庭用ヘルスケア機器とLoRa®を組み合わせることで、心拍・体温・活動量などのデータを長時間・低電力で送信可能になります。これにより、高齢者の見守りや遠隔健康管理が実現します。Wi-Fiや携帯電話の電波などと違い、LoRa®が国内で使用する920MHz帯は医療機関で使用される電波利用機器との干渉が少ないため、医療現場での活用の幅も広がります。
⑤ 産業・オペレーション管理
<利用例>産業用ワイヤレスリモートコントロール
製造業やエネルギー産業においては、プラントや重機などの稼働状況をLoRa®で把握し、必要に応じてリモートから制御を行うことが可能です。広大な工場やインフラ設備でも、低コストかつ安定した通信を維持できるため、運用コストの削減と安全性の向上を同時に実現します。















